コードの8割をAIが書く会社で、開発は8割速くなっているのか

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この記事の目次

本記事の概要

ソフトウェアがソフトウェアを作る自律継続性が、これからのソフトウェアの価値を決めるのではないか、という仮説を私は持っています。この仮説を検証するため、AIモデルを開発する大手各社が公開した一次情報を読む調査を2回行いました。各社は、自社のAIモデルを自社のモデル開発にどこまで使っていると公式に言っているのか。開発がどれだけ速くなったという加速の主張を、各社と外部の研究者はどこまで実測で検証できているのか。この2つを確かめる調査です。

私は、次の4つの資料を精査しました。各社の発表文。AIモデルの公開のときに提供元が性能と安全性の評価をまとめて出す文書、すなわちシステムカード。研究の論文。そして、各社の公表値を独立の研究者が自分の計算の枠組みへ当てはめ直した、経済学の見積もりです。いずれも要約ではなく本文まで読みました。調査の結果、私は、仮説を支える大きな数字と、仮説を弱めるAI開発企業自身の結論の、両方を見つけました。

この記事では、3社の一次文書が実際に何を言っているかを、数字の定義つきで紹介します。私も、ソフトウェアがソフトウェアを作る同じ構造の連鎖を、AIと一緒に個人の規模で運用しています。その運用の実測を重ねて、この仮説がいまどこまで言えて、どこから言えないのかを説明します。

本文の構成を先に示します。まず、社内のコードの8割をAIが書くという数字の正確な定義を確認します。次に、仮説を、モデルの差が次のモデルの差を広げていく構図として定義し直します。3つ目に、私が運用の都合で先に決めていた方式が、後から読んだ各社の現行の推奨と一致していた経緯を紹介します。最後に、当事者自身が自社の進捗の加速をAIに帰属できないと結論している判定を読みます。

記事から得られること

AIエージェントと一緒に開発する体制を作っている人に向けた記事です。AIがモデルを作るという話について、いまの実際の水準を一次情報で知りたい人にも向けています。この記事では、2つの知見を説明します。1つ目は、AIで開発がどれだけ速くなったかという、加速の数字の読み方です。各社は同じ加速を、宣伝の場では大きく語り、安全性の評価では小さく語ります。だから、定義の違う数字をそのまま並べて比較してはいけません。この読み方を、原文の引用で示します。2つ目は、個人の開発へそのまま適用できる教訓で、検証のコストが低い領域ほど連鎖の効果が大きく出る、と私は整理しました。あわせて、AIへ引き継ぐ価値がいちばん高いのは、人がなぜそう決めたかという判断の記録だ、という結論も説明します。

課題と成果の概要

仮説の答え合わせとして、大手各社の公開の一次文書と、独立の経済学の見積もりを本文まで読み、1回目の調査の後に、私は前提を検証し直して、結論を精密にしました。素材はそれらの公開文書と、このプラットフォーム自身の運用の実測です。

仮説

AIが書けるものは、誰でも作れるものへ近づいていきます。作ること自体の価値が競争で薄くなっていくなら、価値は別の場所に残るはずです。私は、その場所が、作ったソフトウェアが次のソフトウェアを作る自律継続性だと考えています。私はこの会員制の技術ブログのプラットフォームを、記事も検索も会話の機能もAIと一緒に作っています。ここでの議論を記録してコンテンツにし、そのAI自身の知識へ戻す連鎖まで含めて、このプラットフォームはこの仮説の実証実験でもあります。

ただ、仮説は仮説です。最先端の現場で本当にそれが起きているのか、各社と外部の研究者がどこまで検証できているのかを、答え合わせのつもりで、公開の一次文書の本文まで読みにいきました。

各社の公式見解

まず当事者の公式の言葉だけを紹介します。OpenAIは2026-07-09の発表文で、直前の半年に研究に使う計算資源のうち、社内でコードを書くAIの実行に充てた割合が100倍になったと書きました。ただし同じ段落で、これは利用量の指標であって研究の進捗そのものを測る数字ではない、と自分で断っています。Anthropicは公式の解説記事で、2026年5月時点で、自社のコードベースへ統合されるコードの80%超を自社のモデルが書いたと公表しました。この80%にも脚注があって、本番へ統合された行のうちモデルに帰属できる割合という保守的な定義であり、行数は量の指標であって質の指標ではない、とまで書いています。Googleの経営トップは講演で、社内の新しいコードの75%がAI生成でエンジニアの承認を経たものだと述べました。こちらは承認を経た生成の割合という定義で、補完機能が出した数行も分子に入りえます。80と75は近い数字に見えますが、定義が違うので並べて比較はできません。

研究の次の一手の選択でモデルが人間の判断に勝つ割合が、51%から64%へ上がったという社内評価も、Anthropicが同じ解説記事で公表しています。OpenAIについては、上位のAIモデルが、モデルを作った後の追加の学習である事後学習を、下位のモデルへ自律的に行ったという発表を、報道が伝えています。ただしOpenAIの社員自身が、上位のモデルはゼロから学習の手順を作ったのではなく、自分の事後学習の設定を小型モデル向けに適応させただけだと補足していて、これは人間なら研究者2人で2週間ほどの仕事だそうです。多様なモデルにわたって完全な事後学習の手順を確実に設計して実行することはまだできていないと、性能と安全性の評価をまとめたOpenAIのシステムカードにも明記されています。それでも、Anthropicの共同創業者の1人は、いまの世代のAIが次の世代を自律的に作る地点まで1年か2年かもしれない、とエッセイに書いてさえいます。

ここまでの公表だけを読めば、ソフトウェアが次のソフトウェアを作る連鎖は、もう完全に機能しているように見えます。

モデルの差が次のモデルの差を広げる構図

競争の構図は、ソフトウェアがソフトウェアを作る連鎖を持っているかどうかでは決まりません。各社が連鎖を担うAIモデルに依存し始めたので、いまのモデルの差は次のモデルの性能の差になり、その差がさらに広がって、後発は追いつきにくくなっていきます。連鎖を持てるかどうかよりも、連鎖から得られる成果の差が回を重ねるごとに広がっていくことが、競争を決める。これが、精密に定義し直した私の仮説です。検証された事実ではなく、私の考えとして書きます。

私はこの読みを、Anthropicのシステムカードの一節でいちばん強く確かめられました。そこには、最近のモデルが自分自身の開発を加速する能力を持つことを理由に、最先端の大規模言語モデルの開発を狙う要求に対しては、モデルの有効性を利用者に見えない形で下げる介入を実装した、と書いてあります。つまり、自社のモデルが持つ次のモデルを作る力を、他者に対しては絞っています。当事者が自分の文書にここまで書いているのだから、この力が競争の中心にあることの裏づけだと私は読みました。

一方で、最先端の各社のうち連鎖を持つ会社と持たない会社に線を引けるのではないか、という読み方は、一次情報を読むと成り立たないことが分かりました。Googleは、閉じた連鎖のいちばん具体的な実例であるAlphaEvolveを、3社の中で最初に公表しました。AlphaEvolveは、Geminiで動くコーディングエージェントです。これが見つけた関数によって、データセンターの計算資源の0.7%が回収され続けています。学習の中核の計算の全体を平均23%速くした改善もあり、これでGeminiの学習時間が1%減りました。AlphaEvolveが提案した回路の設計を、Googleは次の世代のTPUに採用しました。ただし回路の件は、同じ改善を既存の合成の道具も独立に見つけていたと、論文の著者たちが自分で添えています。論文には、GeminiがAlphaEvolveを通じて自分自身の学習過程を最適化した新しい事例だと明記されています。Googleがこれを公表したのは、他の2社が同種の開示を始める約1年前です。しかもこれは、自己申告の生産性調査ではなく、本番に配備された改善の実測の数字です。Googleの開示は控えめでしたが、連鎖の実例はいちばん具体的でした。

個人の規模で運用している連鎖

私は同じ構造の連鎖を、一人の規模で運用しています。まず、ルールの文書の層から説明します。この運用の規律を書いた文書は、最上位のものまで含めて54本あります。私が指摘するたびに、AIがその教訓をその場でルールの文書へ書き足します。改定のたびに追記を積まず、いまのルールだけが書かれた状態へ、AIが本文ごと書き直します。文書の中には、日付つきの私の発言や指摘として由来を明記した箇所が248あります。これは出現の数なので、同じ教訓が複数の文書で重複して数えられます。それでも、いつ誰の判断で決まったかへ遡れる形を、私は運用の既定にしています。もう一つの層が生の記録です。コミットの本文には、何を変えたかに加えて、なぜ変えたか、どの指摘とどの判断を受けたか、何を検証したかを、AIが書きます。この20日で積んだコミットは、マージと、複数の変更を一つへまとめたものを除いて数えると849件です。コミットの本文を詳しく書くと決めた日の前後で、本文の長さの中央値は223字から312字へ動いています。統制した比較ではないので因果までは言えませんが、ルールを書いたら書き方が変わったという相関を、私は測定できています。

2回目の調査で各社の現行の推奨の原文を読んだとき、私が運用の都合で先に決めていた方式が、その推奨と次々に一致しました。1つの教訓につき1つの記録にして、なぜ重要だったかも書け、と1社の公式の手引きで勧められていました。プロンプトと規則のバージョン管理は外部の管理の機能に預けず、自分のリポジトリのgitで行え、という案内も公式の文書に出ていました。生の記録は要約で置き換えずに併存させるべきだ、と研究でも結論づけられていました。加速は実行に集中していて判断には及んでいない、という3社ほぼ一致の判定も、私の運用の見込みと一致していました。この2回の調査で分かったことの中心は、この方式の一致です。

もっとも、私の連鎖も肝心の量はまだ測れていません。投入したAIの能力あたりで、産出がどれだけ増えたのか。実はこの量は最先端の各社でも誰も測れていないと、独立の経済学の論文の著者が自分で書いています。各社は競争上の理由で社内の指標をほとんど出しません。なら、個人の規模の小さな連鎖で同じ構造の量を測って公開できれば、各社が出さない種類の一次データになります。

いちばん控えめな当事者自身の判定

ここを書かないと、この記事はただの宣伝の要約になります。だから私は、仮説を弱める側も同じ詳しさで書きます。

いちばん強い反証は、Anthropic自身が出しています。Anthropicが2026年4月に出したシステムカードには、自社の能力の伸びが急になったことを認めたうえで、特定できた伸びは人間の研究に確信を持って帰属でき、AIの支援によるものではない、関係者に面談して確認した、とまで書かれています。社員の自己申告では産出が4倍でも、進捗への影響の見積もりと合わせると全体の倍率は2倍未満でした。2026-07-24に出た最新のシステムカードでも判断は変わらず、加速は研究の判断ではなく工学の実行に集中している、とあります。OpenAIのシステムカードにも、新しい3つのモデルのどれも、AIの自己改善の評価における最も高い危険の段階Highの閾値に達しないと明記されていて、独立の評価機関も、完全に自動化されたAI研究開発は可能にならないと判定しました。独立の経済学の見積もりでは、自己持続の加速に必要な条件は能力一単位あたり生産性15%の向上で、当事者の自己申告を丸ごと信じた実測は9%でした。条件に届いていません。ただしこの論文の結びは、強まっているように見える、でもあります。

そして3社には、同じ加速を製品の発表では最大化して語り、安全の評価では最小化して語る、という共通の構図が見えます。ある当事者は、2024年に比べて1日に統合するコードが8倍という数字を出しました。その当事者は同じ社内データから全体の進捗は2倍未満と結論し、外部の評価機関は同じデータから2倍超と読んでいます。数字の一致より先に定義と物差しの一致を確かめないと、同じ会社について正反対の結論が作れてしまいます。

一次情報を読むほど、主張の言い方は控えめになっていきます。論文の著者は自分で留保を書き、システムカードを出した当事者は自分で帰属を否定し、利用量の数字を出した当事者は、それが成果の指標ではないと自分で断っています。AIがAIを作り始めたという話をいちばん控えめに語っていたのは、それを最も強く主張しているはずの、当事者たちの一次文書でした。

否定も肯定もされていない仮説の現在地

経済学の論文には、この仮説にとって大事な留保が1つ付いています。狭い能力の加速は広い能力の加速に先行しうるし、その狭い加速は、ソフトウェア開発や数学のような、答えの検証が安く済む領域に集中するはずだ、という予想です。私の仮説が指しているものがこの狭い加速なら、まだ否定されていません。核心の量が未測定である以上、肯定もされていません。

いま言えることを絞ります。検証のコストの低さが連鎖の効果を決めるのなら、公開前の検査を増やすのは正攻法です。加速が実行に集中して判断に及ばないのなら、AIへ引き継ぐ価値がいちばん高いのは判断の記録です。私はこの2つの見込みに基づいて自分の運用を設計しています。2つの見込みが正しかったかどうかの検証の結果を、この場所で測りながら書いていきます。

参考にした研究と一次情報

本文の数字と引用は、いずれも2026-07-26時点で確認した各文書の記載です。本記事は公開文書の記述を整理した考察であり、記載した各社の見解を代表するものではありません。